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「いえ、ニュース見てからそのままなだけですよ」

この子はニュース以外に見るものはないのかね、と思いながら机の上に並べられたリモコンを手に取る。告白シーン寸前でばちっとチャンネルを変えた。
久々に恋愛系のドラマを見たなぁ。太子が好きだからって一時恋愛映画を連れ回されたことがあったけれど、もう勘弁して欲しい。今ではいもちゃんを誘うようになってるから俺としては助かっている。ありがとう、いもちゃん。君は苦労しているだろうけどね。

「何か気になるニュースあったー?」
「いつも通りでしたよ。この前の殺人事件の検証と、政治の話ばっかりです」
「つまんないねぇ」
「そんなものですよ、きっと」

この世界には面白いことが沢山あるはずなのに、電波を通して伝えられるのはどうでもいいような内容と、暗い話題ばっかりで。マスコミも大変だね、と思いつつよく分からない政治に耳を傾ける。
どの政権がどうとか分からない。選挙権は持っているけど、まあいつも適当に投票するだけ。選挙に出てる人たちや真面目に投票している人たちには申し訳ない話だけどね。
またチャンネルを変えると、今度は愛らしい動物が映っていた。虎の子どもってどうしてこんなに可愛いのだろうか。大きくなったらかっこいいのに、甚だ疑問である。特に肉食獣系の子どもって可愛いと思うんだよね。俺の勝手な見解。あ、でも爬虫類のつぶらな瞳もいいよね。実際に目の前にいたら怖くて逃げ出すかもだけど、テレビで見る分にはとても好き。
鳥類もいいね、梟とかふかふかしてて気持ち良さそうだし。ああ癒されるなぁ。ぽすん、とソファの上にリモコンが落ちる。指に力が入らなくなってきた。
別に疲れてるわけじゃないのに、どうしてか眠くて。とろりとろりと瞼が徐々に重くなる。どうしようもなく、眠い。まだ鬼男くんがご飯作ってる途中なのに……駄目だ。ご飯になったら起こしてくれるだろうから、ここは大人しく睡魔に身を委ねよう。
美味しそうな匂いが漂い始める前に、俺はそっと目を閉じた。ソファに体が沈み込んで、深く、深く意識が落ちる。落ちる、落ちる。

目の前に、闇が見えた。

じゃあねと手を振って、ゆっくりと伸びる手に。ぐるりと世界が反転する。星さえもない、何もかもを飲み込みそうな闇の中、足元に世界が広がっている。
それは徐々に形を失くして、溶ける。ほどける。緩やかに、世界に、闇に。反転する、ぐるぐると回る。

ぐらり、横に視界がぶれた。起きて下さいと声がする。ああそうか、これは、夢。

真上に引っ張り上げられるような不思議な感覚と共に、俺の意識は浮上した。最悪な気分だ。気持ちが悪い。

「どうしたんですか?」

ゆるゆると目を開けたらそこには鬼男くんがいて、俺の顔を覗き込んでいる。あんまりにも顔が近くて、心臓が跳ねた。び、びっくりした……。
心配そうに俺を見る目が本当に優しくて、何でだろうとても懐かしい気持ちになった。微かにご飯のいい匂いがするけれど、今何時かな?どれくらい眠っていたんだろう。

「え、あ、……うん」
「何か、怖い夢でも見ましたか」

そろり、と俺の頭を撫でるように頬から髪が払われる。その少し大きくて温かな手は、先程までの不快さは徐々に軟化していく。傍に人がいるのは、救われる気がするから、いい。
安心感に体の力を抜いて、ソファに身を委ねる。夢の中で思い出せることは、やっぱりただ一つだけだった。

「最近多いんだ、嫌な夢。同じ、夢」

世界が反転する夢。鬼男くんと会うその日に夢見てから何度も見続けている。嫌な予感しかしなくて、心の奥がざわつく。どうしてこんなに嫌な気分しかしないのだろう、内容なんて欠片も覚えていないのに。

「教えてもらってもいいですか?」
「うん。でも、全然覚えてないんだよ。嫌な気分だけが残ってるんだ、もうはっきりして欲しいよねぇ」

ソファの際に肘を立てて自分の体重を支え、起き上がろうと力を込めると鬼男くんが俺の背中にそっと触れた。まるで病人みたいだ、何て思いながら彼に手伝われて起き上がる。
時計を見たらまだ三十分も経っていなかった。ご飯はまだ未完成らしい。刻みかけのキャベツと包丁がちょっとだけ見えた。

「鬼男くん、起こしてくれたんだね」
「あなたが魘されてましたから」

当たり前のことのように言われてしまったけれど、今の言葉をしっかりと振り返るとかなりの口説き文句じゃないだろうか。あえて突っ込まないけど。鬼男くん、実は天然タラシだろう。罪な子だね。

「どんな、夢でした?覚えてないなら感覚的なことでも話して下さい。少しでも口にすると楽になりますから」






























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